わかるようでわかりたくない

わかるようでわかりたくない
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本を読んで、久しぶりに泣いた。

何故だろう、、、
涙がこぼれる理由がわかるような、
それでいてわかりたくないような。
でも確かに、透明に、静かに、心に染み込んできた。
その水分が自分でもどうしようもなく
溢れ出したんだと思う。



人は一度巡り合った人と二度と別れることは出来ない。
人間には記憶という能力があり
否が応にも記憶とともに現在を生きている。
君がたとえ僕の前からいなくなったとしても
二人で過ごしていた日々の記憶は残る。
その記憶が僕の中にある限り、
僕はその記憶の君から影響を与え続けられることになる。

あなたが私を愛していて、
私があなたを愛していて、
この愛が本当に本物ならば、
二人はこの世界のどこかで必ず再び巡り合うはずです。
私はそれを信じ、それにかけてみます。

と言って別れたふたり。

再会したのはそれから19年後、、、

彼女はそれから進むべき正しい道がわかっているように思い込んで、
分かれ道に立ったとき、右の道を迷わず進んで行った。
そして、一度その道を歩き始めたらもう戻ることはできなかった。
子供が梯子を上っていって、気が付くと随分高いところに居て、
振り向くと怖くて足が竦んで動けない。振り向くと、怖くて・・・
そうして今、
二人の子供を授かり、旦那は自分の親友の女友達と不倫をしている。

彼はいつものように優柔不断で分かれ道に立ったときも、
いつものように立ち止まって、どちらも選ばなかった。
そして、一度も結婚もせず19年間同じ出版社で編集の仕事を続け、
若い女の子と付き合っている。

再び再会した二人はお互いそのときに言えなかったことを、
抱え込み思い出話にふける。
そして、新宿駅の総武線と中央線のホームを隔て
彼は19年間言いそびれていた言葉をつぶやく、
「さよなら」と。。。

出会いと別れのせつなさを水槽の透明感を通して綴った物語。

パイロットフィッシュ (角川文庫、大崎善生著)

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