傷と汚れ

傷と汚れ
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僕は江國さんの意見ではなく、夫の考えだ。
汚れは誇りみたいなもので、自然についてしまうものという認識だし、傷は行動の中で何かがズレたり思い違いがあったりしてついてしまうものだと思っている。傷つきたくて傷つくわけではないけれど、傷は避けられる。そう思うけれど、大衆的にはどうなのかな?

兎にも角にもこんな会話が出来る夫婦が健やかに素敵だなって、緩やかに微笑ましくなる。


「傷を気に病むなんて馬鹿げてるわ」
ある日、私は指摘した。
「生きていれば、物も人も傷つくのよ、避けられない。それより汚れを気にした方が合理的でしょう?傷は消せないけれど、汚れは消せるんだから」

夫は表情も変えずに、違うね、と言った。

「汚れは落とす気になれば落とせるんだからほっといていいんだ。汚れることは避けられない。傷は避けられるんだから、注意深くなりなさい。」

私はびっくりしてしまった。
人は(たとえ一緒に暮らしていても)、なんて違う考え方をするのだろう。

「避けられないのは傷の方よ。いきなりくるんだもの。」私は主張する。

「生活していれば、どうしたって傷つくのよ。壁も床も、あなたも私も」
主張しながら、なんだかかなしくなってしまった。

とるにたらないものもの(集英社文庫、江國 香織著)

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