人は忘れまいと思うことから忘れていき、
忘れたいことほどいつまでも忘れられない。
でもきっと誰もがそういうものを
抱えているんだろうと思う。
どんなに忘れようとしても忘れられないのは、
もしかすると、それが忘れてはいけないことだからなのかもしれない。
そんなふうにして人は誰も、
ほんとうの大切な誰かのことを、
いつまでも記憶に刻んでいくのかもしれない…
その恋が本物かどうか、見分ける方法がひとつだけあるのよ。
「この男は、あたしが幸せにしてやるんだ」ってそう思えるかどうかよ…。
それでもうまくいかないこともある。
ふたりは別れるしかなかった。
ふたたび
逢うこともなかった。
言葉にすると
想いは
こぼれおちてしまう。だからね、誰かに大事なことを伝えるときはね。
心の底からよーく考えてからにしなさい。
それは、私があの人から教わったこと。
言葉にしたとたんに終わっちゃうことって、
世の中にはたくさんあるから。一度、誰かとの間に芽生えたつながりは、
ずーっと消えずに続いていく。
たとえかたちを変えて、
いつか思い出の奥にしまわれてしまったとしても、
かつてそのひととと心のやり取りをしたっていう
記憶だけは、永遠に残るのよ。
そう_ちょうど海の底に沈んだ宝石みたいにね。
『永遠(講談社文庫、村山由香著)』