作品は19才の少女と精神を病んだ33才の恋人が、ドナウ川で心中した顛末を描いたノンフィクション。常に薄曇りがかかっているような話の展開に読み手の頭上に重くのしかかる。
私はなぜ人間にパンを与えることができなかったのに、
鳥にはこうして与えているのだろうか。それは小さなショックだった。
つまり自分はもし何かを施せば、それ以上のことを要求されるだろうと、人間を恐れていたのかもしれない。
あるいは、人間に対して何かを施すという優位に気軽に立ちたくなかったのかもしれない。
鳥は多くを望まないし鳥の優位に立つことを心配する必要もない。
『ドナウよ、静かに流れよ(文藝春秋、大崎 善生著)』