くろいシミが浮かびあがる
消しゴムでそれを消す
またくろいシミが浮かびあがる
消しゴムでまたそれを消す
それでもくろいシミが次から次へと浮かびあがる
そして次から次へと消しゴムで消す
くろいシミは消えた
でも油断はできない
いつまたどこで浮かびあがるかわからない
だからぼくは目を見張ってそいつを監視する
ぼくはしろくなくちゃならないんだ
くろい悪いやつは消さないといけないんだ
気になって夜も眠れない
しばらくして
またくろいシミは顔を出した
ぼくはいつものように消しゴムでそれを消す
深く浮かびあがったものは
なかなか消えない
気付けば消しゴムはすべて消しカスになって消えていた
ぼくの手はくろいシミを消すたびに
くろくなっていく
いや、元からくろいそいつは僕の内側にいたのかもしれない
くろいシミもぼくのもの
消すことはない
そのままにして、
“あるがまま”にして
先に進もう
くろいシミも引き連れて…。
『森田療法 (講談社現代新書、岩井寛著)』